前回
「近代和声学」ほどではありませんが、同書もパーシケッティ氏なりの基準で様々な参考曲が列挙されています。レッスン内で語り尽くせず、ご希望があったので著作権の許す範囲で掲載します。
恥ずかしながら私自身、提示された全曲の楽譜/音源を確認していません。
楽譜も
こちらに登録などして探してください。Youtubeも極力スコアと一緒に流れる動画を見つけています。リンクは著作権の関係で随時なくなるかもしれないので、文字列をコピーして再検索して下さい。
氏は楽譜のページ数も指定しているので楽譜さえ見つかれば探しやすいと思います。
各種旋法が使われた楽曲例
パーシケッティは各旋法が使われているその旋律(グループ、組織??)を旋法索(music strand)と呼んでいます。旋法の線、流れ、状態、的な意味なのでしょうか。
初めて見る言葉でした。
またModal Interchangeは簡単に「旋法変換」として、「調中心はそのままで旋法のみが変わること」の用語として用いています。つまりAドリアン→Eドリアンに変わった、というものを同書ではモーダルインターチェンジと呼んでいます。
現代のジャズ理論における「モーダルインターチェンジ」の使用はかなり広範な意味を持っているようですので、まったく別物?ぐらいに考えておいたほうが良いと思います。モーダルインターチェンジ警察の皆様方ご留意ください。
また個々の楽曲の楽譜が指定されて掲示されているわけではないので、各意で学習せよ、ということだと思います。
また現代ジャズ的なモーダルハーモニーについては下記をご参照ください。
※ピアノ編曲と書いてある作品は、声楽とピアノの作品や複数のピアノ頼めの編曲の場合なども含めてあるそうです。
モード曲はある程度聞けば分かるので音源のみのものもあります。
ドリア旋法が使用された事例
アーネスト ブロッホ 合奏協奏曲(Concerto Grosso) 第1番 1頁
Ernest Bloch - Concerto Grosso No. 1 (1925)
ドビュッシー ペレアスとメリザンド ピアノ編曲版 116頁
Claude Debussy - Pelléas et Mélisande [With score] - YouTube
ロイ ハリス アメリカン バラード 6頁
Roy Harris - American Ballads I for Piano (1945)
オットリーノ レスピーギ グレゴリ亜風協奏曲 9頁
Ottorino Respighi - Concerto gregoriano for violin and orchestra
エリック サティ ソクラテス ピアノ編曲版35頁
Erik Satie ~1918~ Socrate (ténor & piano) (1975 recording, Cuénod & Ivaldi)
ヤン シベリウス 交響曲第6番 3-4頁
Jean Sibelius - Symphony n. 6 in D minor (with score)
フリジア旋法が使用された事例
ブロッホ 幻想と予言者(Visions et Prophéties) ピアノ曲作品第10番
Ernest Bloch Visions and Prophecies (1936)
カルロス チャーヴェス ピアノ協奏曲 3頁
Carlos Chávez: Concerto per pianoforte e orchestra (1938/1940)
ドビュッシー 弦楽四重奏曲 3頁
Claude Debussy [1862-1918] - String Quartet g-moll, Op.10 [1893]
ペトラッシ 詩篇 第9番 ピアノ編曲 51頁
イルデブランド ピツェッティ チェロとピアノのためのF調ソナタ 16頁
ショスターコヴィッチ 交響曲第5番 4頁
Shostakovich - Symphony No. 5 (Score)
リディア旋法が使用された事例
ブリテン ミケランジェロの七つのソネット 作品第14番
Peter Pears: The complete "Seven sonnets of Michelangelo Op. 22" (Britten)
ロイ ハリス 弦楽四重奏曲 第3番 10頁
ジャン フランチェスコ マリピエロ 民謡と恋の歌(Rispetti e strambotti)4,8頁
Gian Francesco Malipiero: Quartetto per archi n.1 "Rispetti e strambotti" (1920)
ダリュス ミヨー プロテー ピアノ編曲 1頁
ラヴェル 三つのシャンソン 12頁
Maurice Ravel - Trois Chansons (1914-15)
シベリウス 交響曲第4番 14頁
Jean Sibelius - Symphony n. 4 in A minor (with score)
ミクソリディア旋法が使用された事例
バルトーク ピアノ協奏曲 第3番 ピアノ編曲 3頁
Geza Anda plays Bartok piano concerto no. 3 [1\3]
ブリテン セレナーデ 作品第31番 1頁
Benjamin Britten - Serenade for Tenor, Horn and Strings op. 31
ジョージ ガーシュイン ピアノのための前奏曲 5頁
[Zimerman] Gershwin: Three Preludes for Piano
ミヨー 夢(Les Songs) ピアノ編曲 13頁
サティ ジムノペディ 第2番
ダグ ヴィレン(Dag Wiren) 弦楽オーケストラのためのセレナード 2頁
Dag Wirén - Serenade for Strings by the Cali Camerata
エオリア旋法が使用された事例
ドミンゴ サンタ クルツ 三つのマドリガル 3頁
ルイス エスコーバー ピアノソナチネ 第2番 9頁
ヴァージル トムソン 四人の聖者 ピアノ編曲 90頁
ロクリア旋法が使用された事例
バルトーク ミクロコスモス 第2巻 28頁
Béla Bartók - Mikrokosmos - Volume 2 (Audio + Piano Score)
チャーヴェス ピアノのための前奏曲 5,16頁
ドビュッシー フリュート、ヴィオラおよびハープのためのソナタ 11頁
Claude Debussy - Sonata for Flute, Viola and Harp - YouTube
クラウス エッゲ 交響曲 第1番 6頁
Klaus Egge - Symphony No.1, Op.17 "Lagnadstonar" (1942)
ヒンデミット 音の楽しみ(Ludus Tonalis) 4頁
ペトラッシ マグニフィーカート ピアノ編曲 76頁
シベリウス 交響曲第4番 37頁
Jean Sibelius - Symphony n. 4 in A minor (with score)
旋法の変換の使用例
アルフレード カセラ こどものための11の小曲集(11 Pezzi Infantili) 12頁
ヒンデミット 聖母マリアの生涯 1948 18頁
ミヨー 哀れな水夫(Le Pauvre Matelot) ピアノ編曲 1頁
ヴィンセント パーシケッティ ピアノソナチネ 18-19頁
Persichetti Piano Sonatina No. 1
バーナード ロジャーズ アンデルセンの人柄 4-5頁
ネッド ローレム クリスマスカロル 3-5頁
ストラヴィンスキー 兵士の物語 59-60頁
多旋法性を持つ事例
バルトーク 弦楽四重奏曲第3番 10頁
チャーヴェス バイオリンとピアノのためのソナチネ 4頁
ヒンデミット 舞踏音楽 "気高い幻想(Nobilissima Visions)" 4頁
オネゲル 七つの小曲(Sept Pieces Breves) 4頁
メシアン みどりごキリストにそそぐ20のまなざし(Vingt regards sur l'Eanfant-Jesus) 18頁
ミヨー プロテー ピアノ編曲 56頁
Darius Milhaud - Protée (Suite Symphonique No. 2) - Maurice Abravel
カール オルフ ベルナウエリン ピアノ編曲 58頁
プーランク 無窮動(Movements Perpetuels) 56頁
ラベル ピアノ協奏曲 ト調 ピアノ編曲 38頁
ストラヴィンスキー エディプス王 ピアノ編曲 79頁
倍音列を活用した例(上音による例)
ウィリアム バーグスマ(Willam Bergsma) 、3つの歌曲 6頁
エリオット カーター(Eriott Carter)、ピアノソナタ 作品27
デービッド ダイアモンド(David Diamond)弦楽オーケストラのためのロンド 20頁
ヴェルナー ヘンツェ アイヒのためのソナタ 作品27
ジャン ルイ マルティネー オルフェ19頁
Jean-Louis Martinet - Orphée, triptyque symphonique - YouTube
ウィリアム シューマン 舞踏音楽"ひき波"(Under-tow) 40頁
William Schuman: Undertow (1945) - YouTube
セッションズ ピアノソナタ第2番 16頁
ストラヴィンスキー La音のセレナード(Serenade en La ) 9頁
バーンド アロイス チンメルマン 形成(Konfigurationen) 4頁
必ずご自身でこれらの要項が満たされているかご確認ください。
たとえばストラヴィンスキーの「Serenade en La」ならイ調だからAの倍音列だろうから分かりやすいかなと思って見てみたのですが、元々不定調な楽曲ですから、如何様にも解釈ができてしまい、どれが倍音列であり、どのように思考したのかがいまいちさらっと楽譜の音を見ただけでは分かりませんでした。
当然のことですがかなり時間をかけて専門的に一音一音分析する必要があると思います。一般人には"インターネットがなかった時間感覚"で本を読み、読解するには、膨大な時間がかかる難読書、でしょう。。
同書には次のような音階が列挙されています。
わかりやすくアルファベットで書かせて頂きます。これらは合成音階と同書で呼んでいます。
スーパーロクリア
c d♭ e♭ f♭ g♭ a♭ b♭
現代でいうオルタードドミナントスケールです。メロディックマイナー のviiから始まるモードです。
ナポリ短
c d♭ e♭ f g a♭ b
vii-i-iiに半音連続構造があります。
ナポリ長
c d♭ e♭ f g a b
オリエント
c d♭ e f g♭ a b♭
iii-iv-vに半音連続構造があります。
ダブルハーモニック
c d♭ e f g a♭ b
vii-i-iiに半音連続構造があります。
なぞ的
c d♭ e f# g# a# b
原著ではmysteriousとかの訳なのかなぁ(と思ったら、コメントいただいて、Enigmaticでした。原著PDF参考;chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://hugoribeiro.com.br/area-restrita/Persichetti-Twentieth_Century_Harmony.pdf。)...vi#-vii-i-iibと半音二回連続します。原著で読めないって時点で問題外なのでお察しください。同訳書には何度かこの「なぞ的」っていうのが出てきて僕的にも良き的です。
せっかくなので、コメントいただいたジョーサトの同名楽曲。
Not of This Earth (Joe Satriani album) - Wikipedia
「謎めいた」っていう一つの単語だと思えば変じゃないですね。
みんな大好きサウドクエストさんのページがヒットしました。
現代なら"エニグマティックスケール"でいいじゃん!ですね。
ハンガリア短
c d e♭ f# g a♭ b
ダブルハーモニック旋法の第四旋法
iv#-v-vibに半音連続構造があります。
長ロクリア
c d e f g♭ a♭ b♭
iii-iv-vbに半音連続構造があります。
リディア短
c d e f# g a♭ b♭
iv#-v-vibに半音連続構造があります。
上音列
c d e f# g a b♭
現代でいうリディアンドミナントスケール、リディアンb7スケールです。メロディックマイナー の第4旋法です。
主導全音
c d e f# g# a# b
ホールトーンスケールにviiが加わっています。
ハンガリア長
c d# e f# g a b♭
cコンビネーションオヴディミニッシュからiibを抜いた旋法です。
8音スパニッシュ
c d♭ e♭ e f g♭ a♭ b♭
対称的
c d♭ e♭ e f# g a b♭
cコンビネーションオヴディミニッシュです。
これらは当時の民族音階を音楽に使用しようという動きの中で開発されたと考えられます。
合成音階に基づくパッセージの事例
バルトーク 二台のピアノと打楽器のためのソナタ 65頁
Bela Bartok - Sonata for Two Pianos and Percussion, Sz. 110, BB 115 (1937) [Score-Video]
ベンツォン 第3ピアノソナタ 17頁
Piano Sonata No. 3, Op. 44: Allegro ma non troppo
ブリテン ねじの回転 ピアノ編曲 180頁
ロス リー フィネー ピアノ五重奏曲 33頁
チャールズ グリフィス クビライ王の快楽の宮殿 14頁
Charles Griffes: The Pleasure-Dome of Kubla Khan
ルー ハリソン チェロとハープのための組曲 10頁
Suite for Cello and Harp (Lou Harrison) - CeLOUbration 170616-4 wolftraks
オネゲル交響曲第5番 49頁
Arthur Honegger - Symphony No. 5 "Di tre re" (1950)
アラン ホヴァネス ピアノと弦のための協奏曲 "光は訪れ(Lousnag Kicher)" 2-5頁
Alan Hovhaness - Lousadzak (Concerto for Piano and Strings), Op. 48 (1944) [Score-Video]
メシアン みどりごのまなざし(ピアノ) 128頁
Olivier Messiaen - Vingt Regards sur l'Enfant-Jésus (1944)
ペトラッシ マグニフィーカート ピアノ編曲 86頁
Goffredo Petrassi (1904-2003) - Magnificat (1939-40)
マヌエル M ポンセ レールモントフの3つ詩 6頁
ラベル 左手のための協奏曲 ピアノ編曲 20頁
Maurice Ravel - Piano Concerto for the Left Hand
ハラルド セヴェルード シリュスラテン(Siljusslatten) 5頁
シベリウス 交響曲第4番 13頁
Jean Sibelius - Symphony No. 4 (1911) w/score
ストラヴィンスキー 組曲"火の鳥" 25頁
Stravinsky: "The Firebird" Suite (1919 version) (with Score)
小ネタで9の和音の明暗表があって面白かったので引用します。P73を引用し、DAW画面でまとめます。
矢印入れ違いのところは入れ変えてもいいのだとか。
氏はこれらはすべて実用的な和音、と述べているところから、モンクとかが普通にこういう和音を使っていたところなど、"あいつ知っててやりやがったな的"なクスっ話が出てきそうです。
一応音でも。
これらの和音を機能和声とごっちゃにすると話がおかしくなります。
これも自分は明るいとは思えない、とか思っても気にしないでください。以後自身の独自論に上手に吸収してください。
私は、こうした序列づけを行えるほど明確なクオリア感を持っている著者の感性に感心したので引用しました。
こういう和音わけは不定調性論的に考えた方が便利です。
ここでも書きましたが、12音連関表からどういうふうに紡ぐか、ということだけ考えている不定調性論という枠組みに入ってしまった方が、調性や機能を感じながらも無視できます。
続く